TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

業務フロー図で見える化する業務プロセスからシステム要件への道筋

シリーズ: 要件定義とはそもそも何か

TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。

事業・業務・システムの3階層で要件を捉える - TRACERY Lab.(トレラボ)では、要件を事業要件、業務要件、システム要件へと階層化して捉える考え方を説明しました。

階層化した要件

上図には、事業の成功に向けて必要な要件がリストアップされています。しかし、これらの要件は現場の『業務プロセス』で具体的に実行されて初めて価値を生み出します*1

業務プロセスとは、事業の価値を実現するために行われる一連の作業や手続きの流れを指します。例えば、ECサイトで商品を購入する場合、顧客が注文を行う段階から、在庫確認、商品梱包、配送手配、そして商品を顧客に届けるまでの流れが業務プロセスに該当します。このプロセスでは、ヒト、モノ、カネ、情報が緊密に連携*2することで、顧客に価値が届けられます。

業務プロセスを構想し、整理する手段として、業務フロー図の作成が有効です。

本記事では、業務フロー図を作成する効果と、業務フロー図によって業務プロセスを具体化する方法を説明します。

ヒト、モノ、カネ、情報が連携して価値が生まれる

業務フロー図を作成する効果

業務フロー図を作成することで、以下のような効果が得られます。

5W2Hの視点で業務の必要事項を漏れなく詳細化できる

「誰が(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」「なぜ(Why)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「どれくらい(How much)」といった5W2Hの視点を活用することで、業務プロセスを具体的に整理することができます。

業務フローの5W2H

業務フロー図に表現する5W2Hの内容は以下のとおりです。

  • Why(なぜ) 実現したい事業要件、業務要件や価値。業務フローには直接記述しないが、業務フローで運用されることで事業要件や業務要件が実現されることを念頭に置きながら、業務フロー図を作成する必要がある。
  • When(いつ) 業務フロー図の縦軸で時間の流れをあらわす
  • Who(誰が)Where(どこで) 業務フロー図の横の並びの枠(スイムレーン)でステークホルダーや場所をあらわす。例:Who: 部署や担当者、ユーザーなど。Where:オフィス、倉庫、自宅
  • What(何を)How(どのように)How Much(どれくらい) What:具体的な活動やタスク、How:実行方法、How Much:回数、量、金額など

業務の課題点発見とステークホルダー間の共通理解の促進

業務全体の流れや関連タスク間の関係を視覚的に整理し、俯瞰することができます。特に、複数の部門や多くの工程が関与する業務においては効果的で、改善点の発見につながります。

また、専門知識が異なるステークホルダー間で共通言語として機能します。例えば、システム開発者、業務担当者、経営陣などが同じ図を共有して議論することで、要件認識のずれを防ぐことができます。

テスト設計や運用設計の基盤構築

テスト設計や運用設計の基盤としても活用できます。例えば、業務フロー図を基にシナリオテストを設計したり、業務フローを活用して運用マニュアルを作成したりすることが可能です。

業務フロー図の作成手順

次に、業務フロー図の作成手順を説明します。

ステップ1 名前をつける

業務を識別するために名前をつけます。ここでは「商品の販促施策検討」とします。

ステップ2 業務に関係するステークホルダーを配置する

業務に携わるステークホルダーを業務フロー図に配置します。

業務に関係するステークホルダーをリストアップする

ステップ3 フローを作成する

各ステークホルダーが実施するアクションをリストアップし、それらを時間軸に沿って前後関係で関連付けることで、業務プロセスの流れを体系的に整理できます。この際、開始ノードと終了ノードを明示的に設けることで、プロセスの開始点と終了点が一目で分かるようになり、曖昧なプロセス設計を防ぐ効果があります。

フローを作成する

ステップ4 システムを利用するアクションを特定する

業務フローを分析し、システムを使用する具体的なアクションを特定します。この作業により、システムがどの業務プロセスに関与しているかを明確にし、業務全体の効率化や自動化の可能性を評価することができます。例えば、受注処理における在庫管理システムへのデータ入力や更新作業といったアクションを洗い出すことで、システム活用を最適化するための方針を検討しやすくなります。

システムを利用するアクションを特定する

ステップ5 システムを利用するアクションからユースケースを抽出する

システムを使用するアクションから、具体的なユースケースを抽出します*3。ユースケースとは、ユーザーが特定の目的を達成するためにシステムをどのように利用するかを示す具体的な場面です。ユーザーとシステムのやり取りを可視化し、システムが提供すべき機能や操作の流れを明確にするのに役立ちます。

例えば、ECサイトでは、「商品を検索する」「商品を購入する」「注文状況を確認する」などのユースケースが考えられます。

抽出したユースケースを詳細化することで、システム要件定義を体系的に進めることが可能です。例えば、「商品を購入する」ユースケースでは、購入手続きの各ステップやシステムの挙動(例:在庫確認、決済処理、エラー対応)を明確にすることで、システムの振る舞いに関する要件の曖昧さを排除できます。システム要件定義の詳細については、別記事で説明します。

システムを利用するアクションからユースケースを抽出する

最後に

業務フロー図は、システム開発の現場で頻繁に使用される重要なモデルです。その目的は、業務全体の流れを可視化して問題点や改善点を具体的に洗い出すとともに、ユースケースを抽出することでシステムの利用場面を明確にし、システム要件定義に役立てることです。

例えば、5W2Hの視点で業務プロセスを分解することで、曖昧な業務手順や非効率な作業を明確化できます。このような分析は、業務全体を俯瞰することで初めて実現します。

特に、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や、大規模なシステム開発プロジェクトのように、多様なステークホルダーが関わる場面では、業務フロー図の価値は一層高まります。例えば、現場担当者、システム開発者、経営層など、それぞれの視点から業務の全体像を共有しやすくなるためです。

さらに、業務フロー図を活用することで、開発チームが「何を」「なぜ」作るべきかをより明確に定義できるようになります。これにより、システム開発の初期段階で要件の認識のズレを防ぎ、プロジェクト全体の成功率を向上させる効果が期待できます。

業務フロー図は単なる作業手順にとどまらず、組織全体の課題解決や価値創出の基盤となります。その重要性を理解し、システム開発の現場で活用していきましょう。

この記事を書いた人
haru

佐藤治夫。株式会社ビープラウド代表取締役社長。TRACERYのプロダクトマネージャー。エンジニアとして活動を始めて以来、モデリングを中心としたソフトウェアエンジニアリングを実践している。Xアカウント: https://x.com/haru860

*1:実行されなければ絵に描いた餅ということです。

*2:詳しい説明はシステム開発におけるシステムとは何かを参照のこと。

*3:業務フローからユースケースを抽出する手法は、要件定義手法RDRAで提唱されています。