TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。
要件定義では、事業要件、業務要件、システム要件の3層に要件を階層化し、事業戦略から業務運営、システム構築に至るまで整合性を保つことが不可欠です。
本記事では、事業要件、業務要件、システム要件の概要と、それらの整合性がもたらす効果について解説します。
事業、業務、システムの関係
組織の目的を実現するためには、事業、業務、システムがそれぞれの役割を果たし、連携する必要があります。以下に、それぞれの概要を示します。
- 事業 組織が社会的または組織的な目的を達成するために継続的に行う活動全体
- ECモール事業、資産運用事業、フードデリバリー事業など
- 業務 事業を実現するために必要な現場での作業、オペレーション、運用
- 商品販売、営業、マーケティング、商品管理、物流、カスタマーサポートなど
- システム 業務を効率的かつ円滑に進めるためのITシステム*1
- 商品販売システム、顧客管理システム、請求・売上管理システムなど
たとえば、国内でECサイトを通じて商品を販売していた企業が、海外市場への拡大を目指して越境EC事業を開始するとします。
この「事業」を成功させるためには、各国での適切な商品調達先を選定し、在庫を効率的に管理し、顧客に確実に商品を届けるための物流体制を整えることが必要です。これが、事業を支えるための具体的な「業務」の内容となります。
さらに、これらの「業務」を円滑に進めるためには、各国の在庫状況や物流の進捗をリアルタイムで把握し、柔軟に管理できる「システム」を導入することが重要です。
たとえば、在庫管理システムによって需給変動に対応した最適な在庫配置が可能になり、物流システムにより配送状況の一元管理が実現します。これにより、事業全体の効率化が進み、顧客へのサービス品質も向上します。
このように、事業・業務・システムが連携することで、越境EC事業の持続的な成長を支える基盤が形成されます。
上記の例のように、事業、業務、システムは、それぞれが目的達成に向けて、目的と手段の関係で連携しています。
事業は、組織が目的を達成するための活動全体を指し、その目的に沿って具体的な業務が現場で展開されます。
そして、これらの業務を支え、効率化と精度向上を図るための基盤として、システムが不可欠な役割を果たします。
事業要件、業務要件、システム要件の関係
事業、業務、システムが効果的に機能するために定義されるのが、『事業要件』『業務要件』『システム要件』です。以下にそれぞれの概要を示します。
- 事業要件 事業で目指す目的のために、実現すべきと合意した事項
- 業務要件 事業要件を達成するために、各業務プロセスで具体的に実現すべきと合意した事項
- システム要件 業務要件を満たすために必要なシステムの機能、性能、運用条件などを定義し、実現すべきと合意した事項
たとえば、組織全体の目的として「スピーディーな意思決定」をするために「経営と現場の一体化」を実現することが事業部門の事業要件として掲げられたとします(下図)。
この事業要件を実現するために、物流部門では業務要件として「リアルタイムの在庫管理」を設定し、システム要件として「入出庫の自動ログ記録」を行う仕組みの構築を決定しました。これにより、常に正確な在庫状況を把握でき、経営判断を迅速に行うための基盤が整います。
また、営業部門では業務要件として「売上データの全社共有」、システム要件として「売上ダッシュボード」を開発することを決定しました。これにより、全社を横断した売上データの共有と分析が容易になり、経営と現場の連携が強化されます。
このように、各部門が事業要件に基づいた業務要件とシステム要件を設定し、具体的に業務を構築することで、組織全体として「スピーディーな意思決定」という目的に近づくことができます。
事業、業務、システムが有機的に連携することで、組織全体の目的を一貫性を持って効果的に達成できるようになります。
最後に
本記事では、事業要件、業務要件、システム要件の階層構造において整合性を保ち、事業・業務・システムが有機的に連携する重要性について解説しました。
事業・業務・システムが有機的に連携することで、事業目標から現場業務、システム構築までが一貫性をもって効果的に運営され、組織全体の成果に結びつきます。
そして、事業要件や業務要件に即したシステム要件を見極めることで、システムが組織の価値創出に貢献することが可能になります。
要件定義を行う際には、システム要件だけでなく、その背景にある業務要件や事業要件にも注目し、全体を俯瞰して確認しましょう。
*1:ここでのシステムは狭義の「システム」を表す。広義、狭義のシステムの定義についてはシステム開発におけるシステムとは何かを参照のこと。