TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

MCP連携で加速するAI駆動開発 - その1:TRACERYがMCP対応した理由とその背景

2025年8月12日(火)に、TRACERYによるMCP連携が正式リリースとなりました。 正式リリースに先立ち、2025年7月28日(月)に開催された勉強会『BPStudy#215〜MCP連携で加速するAI駆動開発〜』にて、MCPの解説、MCP連携を活用したAI駆動開発の価値・手法の解説と、TRACERYを用いたMCP連携のライブデモが行われました。

本記事では、アーカイブ動画の紹介と前半の発表の様子を書き起こし記事として紹介します。

MCP連携で加速するAI駆動開発


イベント概要

登壇者

  • スピーカー:
    • 清水川 貴之(IT Architect / TRACERY 開発チーム)

発表資料

アーカイブ動画

youtu.be


登壇内容の紹介

MCP連携で加速するAI駆動開発

本日はよろしくお願いいたします。それでは、「MCP連携で加速するAI駆動開発」というタイトルで、BeProudの清水川が発表いたします。

まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。私はBeProudに所属しており、IT ArchitectとしてTRACERY開発チームで開発業務を行っています。個人活動としましては、Pythonコミュニティ関連の活動や、書籍の執筆・翻訳などにも携わってきました。

AI駆動開発の現状と進化

アーカイブ動画チャプター

AI駆動開発 - MCP連携で加速するAI駆動開発【BPStudy215】TRACERY - YouTube

コーディング支援から自律的なコード生成へ

本日のテーマは「AI駆動開発とMCP」です。AIは登場以来、様々な用途に活用され、コーディングにおいてもその利用は拡大しています。最近の流れとして、人間が実装方針を考えてコードをタブ補完で記述する時代から、要件や設計をもとにAIが自律的に実装を行う時代へと変化してきたと認識しています。

その背景には、AIのサポート範囲が拡大していることがあります。 例えば、これまではGitHub Copilotなどによるタイプ補完でコードを記述していましたが、現在ではコーディングエージェントによる自動実装が可能になっています。

具体的には、IDE上で「これを実装してください」と指示したり、ターミナル上で対話しながら実装したりできます。 さらに、対話を介さない方法として、IssueをアサインするだけでPull Requestを自動生成する手法も、複数のプロダクトで普及しつつあります。

これに伴い、AIへの指示方法も、タブキーで自動補完されるといった使い方から進化しています。 例えばVS Codeでは、画面右側にチャット欄が設けられ、そこでの質問だけでなく、「何々を実装して」と指示することで、IDE上で自動的にコードが生成され始めます。

また、AIにルールや仕様書を渡して実装を指示する方法や、最近AWSがリリースした「Kiro」のように、AIと共に仕様や設計を作成してから実装を進める「スペック駆動開発」という言葉も生まれています。

AIエージェントとMCP連携による開発の加速

AIエージェントとMCP連携

そして、このAI駆動開発は、MCP連携によってさらに加速していきます。 これがどういうことか、まずAIエージェントについて説明します。

AIチャット、例えばChatGPTなどとの対話は、人間とAIとの対話です。 これはLLMという仕組みに基づいており、質問に対して最も確からしい文字列を生成して回答するものです。 これに対し、AIエージェントは自律的に目標を達成します。

従来のチャットでは、人間が「そうではなくてこうだ」と深掘りしながら目標に近づけていく必要があり、その文脈でプロンプトエンジニアリングといった言葉も生まれました。 しかし、AIエージェントは、人間が行っていたこのやり取りを肩代わりします。

具体的には、計画立案の段階で、設定された目標、例えば「〇〇の機能を実装して」という指示を達成するために必要なプロンプトを内部で自動生成し、AIチャットと対話しながら必要な情報をまとめます。

そして、LLMから得られた結果が期待通りかを確認し、もしそうでなければ試行錯誤を繰り返すというプロセスを、全て自動的に裏側で実行してくれるのです。

業界標準プロトコル「MCP」とは何か

MCPとは何か

ここで、MCP連携がどのように関わるかについて説明します。 MCP、すなわち「 Model Context Protocol 」は、もともとAIチャットやAIエージェントが外部ツールと連携するために存在した機能を置き換えるものです。 現在、クライアント、外部ツール、データ接続のための共通仕様として業界標準となるべく急速に普及が進んでいます。

これまでは、例えば「ピザを注文する」というファンクションを作成し、LLMと連携させたとします。 LLMが適切なサイズのピザを自動で注文してくれるような機能を作ったとしても、各社の仕様が異なるため、それぞれに合わせた個別の実装が必要でした。

しかし、MCPの登場により、「ピザを注文する」という共通のMCPサーバーを一つ実装すれば、VS CodeやClaude、Cursorといった様々なクライアントからその機能を利用できるようになります。

さらに、複数のエージェントを取りまとめる「Agent to Agent(A2A)」という概念も登場しており、その文脈でもMCPは活用されるでしょう。 A2Aから各エージェントが呼び出され、そこからMCPが利用される、あるいはA2A自体がMCPを利用することも考えられます。

このように、MCPは今後、業界標準として定着し、様々な場面で利用が拡大していくと予想しています。

MCPサーバーの2つの種類:ローカルとリモート

次に、MCPの内部構造についてもう少し詳しく説明します。 AIエージェントとサービスを接続するこの共通プロトコルは、大きく分けて「ローカルMCPサーバー」と「リモートMCPサーバー」の2種類があります。

ローカルMCPサーバーは、VS Codeなどのクライアントと同じ環境で動作させる必要があり、主にローカルファイルの検索や読み込み、外部サービスとの接続に用いられます。 例えば、GitHubに接続する際には、パーソナルアクセストークンを使用することで、ローカルMCPサーバー経由での接続が可能です。

ただし、利用者各自でDockerリポジトリの指定やパーソナルアクセストークンの設定など、インストールやセットアップが必要となるため、手軽さに欠けるという側面もあります。

開発者がGitHubに接続するような用途では問題ありませんが、誰でも簡単に使えるわけではないのです。 図の右下は、ローカルマシン上でファイル操作やデータベース操作を行うMCPサーバーを立て、ローカル内で完結させる使い方を示しています。

これに対し、図の右上が示すのは、インターネット側で利用されるリモートMCPサーバーです。 これは2025年3月26日の仕様で標準化され、2025年6月18日の仕様で強化・拡充されました。*1

外部でホスティングされているMCPサーバーに接続し、OAuth認証によってアクセス権を付与することで利用します。 サーバーは既に外部に用意されているため、利用者はURLを入力して認証を行うだけで、簡単に使い始めることができるという利点があります。

AI駆動開発の課題とMCPによる解決策

次に、AI駆動開発の課題とMCPの活用について紹介します。AI駆動開発は、単純なタブ補完から自律的なコード生成まで進化していますが、課題も存在します。よく指摘されるのが、AIが長いコンテキストを忘れてしまうという点です。例えば、会話の冒頭と末尾の内容は覚えているのに、中盤で話した詳細な指示を忘れてしまうといったことがあります。

この問題に対する対策として、開発ルールやコマンドの備忘録などをローカルファイルに記述しておく方法や、設計・実装の途中経過を一度ファイルに書き出して仕様としてまとめ、それを基に次のステップに進むといった方法が取られています。ファイルを活用することで、その知見を次の開発にも活かせるという利点があります。

しかし、これらの対策をリポジトリで管理する運用にも課題があります。現在、ルールや設計をコードと一緒にリポジトリにコミットする運用が広まっていますが、いくつかの問題点が挙げられます。

第一に、AI向けのまとめファイルやフロー定義ファイルが増加し、リポジトリが煩雑になることです。これは人間が開発する場合でも起こり得ることですが、開発の経緯と最終的な設計がリポジトリ内に混在してしまい、「結論はどれだっけ?」とストック情報を見つけるのが困難になります。

第二に、人間向けの仕様との分断です。設計情報がリポジトリにだけ存在しているため、開発者以外が参照しづらいという課題があります。多くはMarkdownで記述されGitHubでは読みやすくフォーマットされますが、開発者でない人がGitHubにアクセスしてファイルを読む、あるいはそれを修正・コメントするのは容易ではありません。

これらの点から、AI駆動開発においても、ストック情報を整理し、誰でも参照できる状態にすること、すなわち「参照可能性」を高めることが非常に重要だと考えます。整理されたストック情報は、開発のノイズを減らし、次の開発サイクルへと繋げるうえで大きな効果を発揮します。


次回の、 設計書からAPIまで──TRACERY連携の実演では、TRACERYのMCP機能を活用し、設計書からAPI実装までをライブデモ形式でお伝えします。

*1:リモートMCPの仕様バージョンを訂正しました。