TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

価値の見える化がもたらす意識の変容〜匠Method × U理論:変革を加速する共通の原理その4

TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。

2024年9月26日(木)に開催された勉強会「匠Method User Group Meetup#8〜U理論で匠Methodのモデリングを深めよう」の第2部では、匠Method*1とU理論*2の共通点をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。その時の様子をお伝えします*3

第1部の資料:U理論で深まる匠Method のモデリングプロセス

匠Method × U理論:変革を加速させる共通の原理

  • パネラー
    • 萩本 順三(はぎもと じゅんぞう) 氏:以下、萩本
      • 匠Method開発者、(株)匠Business Place代表取締役会長
    • 濱井 和夫 (はまい かずお) 氏:以下、濱井
      • 匠Method User Group幹事、NTTコムウェア(株)
    • 小林 浩 (こばやし ひろし) 氏:以下、小林
      • 匠Method User Group幹事、(株)SI&C
    • 山崎 仁(やまざき ひとし) 氏:以下、山崎
      • 匠Method User Group幹事、(株)アクティアCOO
    • 佐藤 治夫(さとう はるお) :以下、haru
      • 匠Method User Groupリーダー幹事、この記事の筆者
  • モデレータ
    • 高崎健太郎(たかさき けんたろう)氏:以下、高崎
      • 匠Method User Groupリーダー幹事、(株)アクティアCOO

萩本:1つ思ったのは、U理論の「観察する(Seeing)」をどう捉えるかということです。

U理論と匠Methodのマッピング

萩本: 私が昔、業務改革に携わってた頃は業務フローを作っていました。As-Isから作成する業務フローは時間ばかりかかってしまって、かつ現状にとらわれてしまうんですね。要求開発をやり始めた頃から、それが果たして良いのだろうかと考えてました。

それから私はどちらかというと「バックキャスティング*4(下図参照)」のアプローチに重点を置くようにしました。そうすると未来のビジョンから狙い打ちができるようになり、問題や改善すべきことが見えてきます。匠Methodは実現したい価値から考えるのでバックキャスティングのアプローチです。

U理論で「観察する(Seeing)」をやりすぎると、現状にとらわれてしまうかなと思いましたがどうなのでしょうか。

バックキャスティングとフォアキャスティング

haru:「観察する(Seeing)」は、入念に観察するという意味合いではないです。目の前の事象に、過去の経験や知識から来る固定観念で「良い」「悪い」を判断して問題解決する*5のではなく、判断を「保留」して、立ち止まってフラットな目で見るというイメージです。まずは素直に見るということです。

萩本:素直にね。そういう意味では、匠Methodの「ステークホルダーモデル」を今のカタチにした理由と一致してますね。「ステークホルダーモデル」も素直にさらっと捉えて、とりあえず問題を認識しましょうという位置づけです。問題を解決するアプローチにすぐに行かないんですよね。

haru:問題解決のアプローチにすぐに行くと、「実践(Performing)」(下図参照)に行ってしまいます。表面的にはスムーズに進んでいるように見える場合でも、現状に問題があるならば、本質的な解決には至らないことが多いです。

固定観念による問題解決のアプローチ

萩本:なるほど、面白いですね。

濱井:haruさんが別のイベント*6で説明していた、匠Methodによるモデリングが意識変容をもたらす過程を示したスライドが興味深いと感じました。「絶対できない」から始まり、「私がやらなければ誰がやる」に変わっていくという内容です。

あきらめから覚悟に変わっていく意識の変容

haru:(上図の)①〜③は、「自分たちにはできるはずがない」という諦めの状態です。解決策もアイデアレベルでは「良さそうだが、よくわからない」となり、行動につながらず、結局何も変わりません。匠Methodを用いて価値を見える化することで意識が変わり、覚悟の段階まで進めば、行動のモチベーションにつながります

萩本:(上図の) ①〜③のレベルで、留まる人が多いですよね。それは過去に囚われてるんです。「前にやったけど、うまく行かなかった」「大変な目にあった」とか。

次回は、問題を解決するために、次元を変えて考えることについて話が進みます。

tracery.jp

この記事を書いた人
haru

佐藤治夫。株式会社ビープラウド代表取締役社長。TRACERYのプロダクトマネージャー。エンジニアとして活動を始めて以来、モデリングを中心としたソフトウェアエンジニアリングを実践している。Xアカウント: https://x.com/haru860

*1:価値をデザインすることをコンセプトとしたモデリングを主体としたビジネス企画手法。公式URL:匠Method。当記事の筆者は2025年1月現在で12年間実践で活用している。

*2:個人や組織が変革を起こすための創造のフレームワークで、オットー・シャーマー博士(MIT)が提唱した理論。さまざまな領域で変革を起こした約130名のリーダーにインタビューを行い、その人たちが創造的な活動において何を重視しているかを研究した結果を元に体系化された。書籍:U理論[第二版]―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術

*3:内容が伝わりやすくする目的のため、実際の内容から話の流れを再構成している部分があります。ご容赦ください。

*4:バックキャスティング(Backcasting)とは、望ましい未来の状態を最初に定め、そこから逆算して現在何をすべきかを考える手法。長期的なビジョンを実現するための戦略策定やシナリオプランニングに用いられる。フォアキャスティング(Forecasting)とは、現在のトレンドや過去のデータをもとに、将来を予測する手法。主に短・中期の計画やリスク管理に活用される。

*5:U理論では「ダウンローディング(Downloading)」という。過去の経験や知識から来る固定観念や考えをダウンロードして使用するという意味合い。

*6:※資料:匠Methodで 価値創造を ファシリーテートする〜イノベーション創造プロセスのU理論をベースに:URL:https://speakerdeck.com/haru860/jiang-methodde-jia-zhi-chuang-zao-wo-huasiritetosuru-inobesiyonchuang-zao-purosesunouli-lun-wobesuni