TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

「意」と「情」の相乗効果〜匠Method × U理論:変革を加速する共通の原理、その6

TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。

2024年9月26日(木)に開催された勉強会「匠Method User Group Meetup#8〜U理論で匠Methodのモデリングを深めよう」の第2部では、匠Method*1とU理論*2の共通点をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。その時の様子をお伝えします*3

第1部の資料:U理論で深まる匠Method のモデリングプロセス

匠Method × U理論:変革を加速させる共通の原理

  • パネラー
    • 萩本 順三(はぎもと じゅんぞう) 氏:以下、萩本
      • 匠Method開発者、(株)匠Business Place代表取締役会長
    • 濱井 和夫 (はまい かずお) 氏:以下、濱井
      • 匠Method User Group幹事、NTTコムウェア(株)
    • 小林 浩 (こばやし ひろし) 氏:以下、小林
      • 匠Method User Group幹事、(株)SI&C
    • 山崎 仁(やまざき ひとし) 氏:以下、山崎
      • 匠Method User Group幹事、(株)アクティアCOO
    • 佐藤 治夫(さとう はるお) :以下、haru
      • 匠Method User Groupリーダー幹事、この記事の筆者
  • モデレータ
    • 高崎健太郎(たかさき けんたろう) 氏:以下、高崎
      • 匠Method User Groupリーダー幹事、(株)アクティアCOO

小林:私は2023年の9月ぐらいからコーチングを受けてました。そこで私はU理論でいうと「プレゼンシング(Presencing)*4」に至ったんですね。それが2024年の初めくらいです。それで自分に何が起きたかと言うと匠Methodの「価値デザインモデル」を書きたくなったんですね。

U理論と匠Methodのマッピング
そして、書いた「価値デザインモデル」を会社のブログに載せたくなりました。覚悟ができて、誰にどう思われても構わないと、自分はこうなんだというのを言いたくなったんですよ。

コーチングを受けてた時の手法は「コ・アクティブ・コーチング(Co-Active Coaching)*5」というものです。これは、対話を通じて人の潜在能力を引き出すコーチング手法で、自己理解を深める効果があります。

しかし、自分自身を客観的に「観察する(Seeing)」のは容易ではありません。

コーチが私を観察し、「今、少し寂しそうな表情をしていましたね」や「とても元気そうですね。何か楽しいことがありましたか?」といったフィードバックをくれることで、自分では気づかなかった感情の変化に気づけました。

コーチが私の内面を引き出してくれたことで、次第に「何をするか(Doing)」ではなく、「自分は何者なのか(Being)」に意識が向くようになりました(下図)。

"DoingとBeing

そして、あるとき「私は、さまざまな人をつなぎ、世の中を幸せにするWin-Winプロデューサーだ」と口にしました。

その瞬間、それは過去にもやってきたし、今もやっている。過去や未来といった時間の枠を超えたように感じたのです。

それによって、「価値デザインモデル」のビジョンに落とし込みたくなり、さらにキャッチコピーやデザイン、意味といった形で表れました。しかし、そこに至るまでは決して楽ではありませんでした。

自分自身に問いかけ続ける中で、「私は何のために生きているのか? 何が楽しくて、何をやりたいのか?」と考えても、まったく答えが見つからなかったのです。それでも思索を重ねるうちに、ふと何かを発見した感覚がありました。

それが、自分の「Being」が明確になり、存在の本質、U理論でいう「源(ソース)」とつながったのではないかと感じた瞬間だったのです。

今悩んでるのは、チームとして複数の人を「プレゼンシング(Presencing)」に持っていくというのは、簡単ではないのだろうなということです。匠Methodは確実にそれを助けてくれる道具でありますが。

萩本:簡単ではないですね。

集合意思の形成」というのは、うまくいくときはスムーズに進みます。人間は言葉さえあれば握手できる*6動物です。「意(意志)」と「情(感情)」の世界で共感し、賛同してくれる人がいればよいのですが、受け入れられないことも少なくありません。難しさはありますが、たとえ失敗しても地道に進めていくことが大切です。

企画を進める際は、自分たちの「意」を「情」を通じて検証することが重要です。「価値デザインモデル」は、自分たちの「意」を明確に表明する役割を担います。一方、「価値分析モデル」は「情」を表現するものです。「価値分析モデル」においては、ステークホルダーの価値を感性だけでなく、具体的な実現手段を伴って表現することが、「意」の実現性の検証につながります。

具体的な手段が無いので「意」の実現性の納得感がない

具体的な実現を伴って「情」を表現することで「意」の実現性を検証する

自分たちの目指す方向性である「意(意志)」によって「情(価値が生まれたときの感情)」が実現したとき、心から嬉しく感じます。その瞬間、「心が昇華した」と感じるのだと思います。まるで心が軽くなるような感覚です。

自分たちが目指すものが形を変え、他者にとっての価値となる。これは、芸術家が志を持って作品を描き、それを見た人が「素晴らしい」と受け止めることに似ています。

小林: 「Being」とは、「自分はこうである」ということです。しかし、それだけでは自分は動きません。「情」によって、他者を喜ばせたいと思うことで、「意」に動きが生まれる、それが「情」の役割なのだろうと思います。

一方で、「情」だけに注目し、「意」が伴わなければ、自分が何者なのか分からなくなり、行動が分散してしまいます。

萩本:情に流され、ほだされる*7ということですね(下図)。

個々の感情に流され行動が分散する


萩本: そうならないためには、明確な「意」によって「情」に方向性を与えることが必要です(下図)。

明確な「意」によって「情」に方向性を与える

萩本: また、「意」が強すぎて独りよがりになると、ニーズに合わなかったり、関係者の協力を得られなかったりして価値の実現につながりにくくなります。(下図)。

視野が狭く独りよがりの意志

萩本: そのような時は、「情」によって「意」の視野を拡げることが必要です(下図)。このように、「意」と「情」の間には、互いを高め合う相乗効果が働きます。

情によって、意の視野が拡がる

小林:今日の話を通じて、匠Methodへの理解が深まりました。これまで表面的に捉えていたことも、U理論との関連を踏まえることで、より明確に理解できました。

高崎:小林さんが締めくくってくださいましたので、そろそろ終了といたします。本日はありがとうございました。

この記事を書いた人
haru

佐藤治夫。株式会社ビープラウド代表取締役社長。TRACERYのプロダクトマネージャー。エンジニアとして活動を始めて以来、モデリングを中心としたソフトウェアエンジニアリングを実践している。Xアカウント: https://x.com/haru860

*1:価値をデザインすることをコンセプトとしたモデリングを主体としたビジネス企画手法。公式URL:匠Method。当記事の筆者は2025年1月現在で12年間実践で活用している。

*2:個人や組織が変革を起こすための創造のフレームワークで、オットー・シャーマー博士(MIT)が提唱した理論。さまざまな領域で変革を起こした約130名のリーダーにインタビューを行い、その人たちが創造的な活動において何を重視しているかを研究した結果を元に体系化された。書籍:U理論[第二版]―過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術

*3:内容が伝わりやすくする目的のため、実際の内容から話の流れを再構成している部分があります。ご容赦ください。

*4:「Presence(存在)」と「Sensing(感覚する)」を組み合わせた造語

*5:CTI(The Coaches Training Institute)が提唱するコーチングのアプローチの一つで、単なる問題解決ではなく、クライアントの内面的な成長や変革を促すことを目的としている。「Co-Active」とは「協働(Co)」と「主体的(Active)」の両方を意味し、コーチとクライアントが対等なパートナーシップを築きながら、クライアント自身の可能性を最大限に引き出すことを重視する。クライアントの目標達成だけでなく、その人自身の「在り方(Being)」を大切にし、主体的な人生を歩めるよう支援するもの。コーチは助言するのではなく、質問や対話を通じてクライアントの内なる答えを引き出す役割を担う。

*6:合意できるということ

*7:情や親切心に引かれて、自分の意志や考えを曲げてしまうこと。