TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

V字モデルの各レイヤー(企画、運用・評価編)

TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。

この記事ではV字モデルのレイヤーのうち、「企画」プロセスと「運用・評価」プロセスについて説明します。

V字モデルの各レイヤーの説明は以下の記事を参照してください。

tracery.jp

V字モデル上の「企画」と「運用・評価」

企画」プロセスと「運用・評価」プロセスはV字モデルの頂点にあり、システム開発の目的(Why)に焦点を当てたレイヤーです。

V字モデル上の「企画」プロセスと「運用・評価」プロセス

V字モデルでは、右側のプロセスが左側のプロセスの検証を行う役割を果たします。

上図は、「企画」プロセスで定義された課題の解決や価値の実現が、「運用・評価」プロセスで検証され、その結果が次の企画や開発にフィードバックされることを現しています。

このフィードバックループは、システムの継続的な改善を促し、長期的な成功を確保するために不可欠です。

企画プロセスと運用・評価プロセスの概要は以下のとおりです。

  • 企画プロセス:解決すべき問題や取り組むべき課題、創出する価値を定義し、目的を実現するためのコンセプトや方向性、道筋や計画を構想する
  • 運用・評価プロセス:システムを運用し、企画プロセスで定義した課題の解決や価値が実現されているかを評価する

以下、それぞれのプロセスを詳細に説明します。

企画プロセス

企画の構成

企画とは、アイデアをカタチにするための最初のステップです。この段階で最も重要なのは、なぜその企画に取り組むのか(Why)という目的を明確にすることです。具体的には以下のような内容を定義します。

  • 解決したい問題や直面している課題: 誰がどのような問題や課題を持っているか
  • 創出したい価値: 誰にどのような価値を提供したいか。どのような未来を実現したいか(ビジョン)

企画では、自分たちが本当に実現したいと感じるビジョンや熱意が非常に重要です。

これらがなければ、企画を実現するためのモチベーションが欠け、途中で企画が頓挫する可能性が高まります。ビジョンと熱意が明確であれば、取り組むべき価値があるかどうかを判断するための重要な指標となります。

次に重要なのが、納得感のあるロジックです。どれほど熱意があっても、実現可能性が分からなければ企画は実行に移せません。具体的には以下のような内容を定義します。

  • 要求: 価値を実現するためにやりたいことや実施したいこと。事業、業務、システム、活動などの内容が含まれる
  • 計画: 開発のスケジュール、リソース計画、コミュニケーション計画

納得感のあるロジックを持った企画は、実行可能性と共感を生み出し、実行への道筋を明確にします。

運用・評価プロセス

ここでは、運用と評価の2つの側面について説明します。

運用・評価の結果を企画にフィードバック

運用

システム運用プロセスは、開発したシステムを実際に運用し、事業を支える重要な段階です。このプロセスでは、システムが実際の業務で利用され、ユーザーに価値を提供します。

運用中は、ユーザーからのフィードバックを収集することが重要です。このフィードバックは、日常の運用活動の一環としてシステムの使用状況を観察し、ユーザーが直面する問題や改善点を特定するために使用されます。

ユーザー観点以外の運用活動として、システムのパフォーマンスモニタリングがあります。これには、システムの速度や稼働状況を定期的にチェックし、問題が発生した場合には迅速に対応することが含まれます。

例えば、ユーザーがシステムにアクセスする際の遅延を最小限に抑えるために、サーバーの処理能力を調整するなどの対策を講じます。

また、セキュリティ対策は運用において極めて重要です。不正アクセスの監視やウイルス対策、定期的なセキュリティパッチの適用などを行います。これにより、システムとデータの保護を強化します。

さらに、定期的なバックアップを実施し、万が一のデータ消失に備えます。

このように、運用プロセスはシステムの発展や改善と安定した運用に欠かせない活動を含んでいます。最終的に、これらの活動がシステムの価値を高め、事業の円滑な運営を支えることになります。

評価

企画プロセスで定義した問題が解決され、価値が創出されているかを検証し評価します。

このプロセスでは、ソフトウェアのリリース後に、実際に運用した結果を基に、企画で設定した目標や価値が達成されているかを評価します。KGI(Key Goal Indicator: 経営目標達成指標)*1KPI(Key Performance Indicator: 重要経営指標)*2といった定量的な指標を使用して、具体的な成果を数値で測定します。例えば、ユーザー数の増加率や操作ミスの減少率などが評価対象となります。

また、ユーザーからのフィードバックやサポートリクエストの分析を行い、システムの使い勝手や性能に関する定性的なデータを収集します。このデータには、ユーザーインタビューやアンケート調査の結果が含まれ、ユーザー満足度や改善点についての具体的な洞察(インサイト)を提供します。さらに、エラー率やシステムダウンタイムの分析を通じて、技術的な側面からも評価を行います。

リーンスタートアップとV字モデル

「企画」と「運用・評価プロセス」のフィードバックループを一巡するには時間がかかります。そのため、企画・開発した製品がユーザーに受け入れられるかどうかを確認するまでのコストやリスクも、時間とともに増大します。

リーンスタートアップ*3は、フィードバックループを最小限に短縮し、不確実性から来るリスクを抑える手法です。このアプローチでは、限られたリソースでアイデアを迅速に検証し、市場のニーズに迅速に対応することが重視されます。

具体的には、「最小限の実用的な製品(MVP: Minimum Viable Product)*4」をまず作成し、それを市場に投入して顧客からのフィードバックを集めます。そのフィードバックを基に、製品やサービスを改善するプロセスを繰り返します。この方法により、大きなリスクを避けつつ、効率的に開発を進めることが可能です。

下図は、リーンスタートアップのサイクルとV字モデルのプロセス(企画、運用・評価)の対応関係を示しています。リーンスタートアップのプロセスで短期間で仮説、構築、検証のサイクルを回す際に、V字モデルの考え方も適用できることがわかります。

リーンスタートアップのサイクルとV字モデル

最後に

この記事では、V字モデルの「企画」プロセスと「運用・評価」プロセスについて説明しました。

企画は1度作成して終わりではありません。企画はあくまで仮説であり、システムをユーザーに提供して、得られたフィードバックをもとに仮説を洗練させていくことが重要です。

次回の記事では、V字モデル上の「要件定義」プロセス(業務要件定義、システム要件定義)と、運用テスト、システムテストについて説明します。

この記事を書いた人
haru

佐藤治夫。株式会社ビープラウド代表取締役社長。TRACERYのプロダクトマネージャー。エンジニアとして活動を始めて以来、モデリングを中心としたソフトウェアエンジニアリングを実践している。Xアカウント: https://x.com/haru860

*1:企業やプロジェクトが達成すべき主要な目標を評価するための指標。KGIは、組織が目指す最終的な成果や成果を測定し、戦略の成功を評価するのに役立つ。例えば、売上の増加、マーケットシェアの拡大、顧客満足度の向上などがKGIとして設定されることがある。KGIは、全体的なビジネス目標や戦略の達成状況を示すため、重要なパフォーマンスの指標となる。

*2:組織やプロジェクトの進捗や成功度を測定するための具体的な指標。KPIは、特定の目標やタスクの達成状況を評価するために使用され、組織が戦略的な目標を達成するための進捗を追跡するのに役立つ。例えば、売上高、顧客獲得数、製品品質、作業効率、従業員満足度などがKPIとして設定されることがある。これらの指標は、数値や割合などの形で測定可能であり、進捗のモニタリングや改善のための意思決定に役立つ。

*3:Wikipediaを参照のこと

*4:詳細はWikipediaを参照のこと