TRACERY Lab.(トレラボ)

TRACERY開発チームが、要件定義を中心として、システム開発で役立つ考え方や手法を紹介します。

Modeling Forum2025「AI時代のシン・データモデリングとは?」 参加レポート

TRACERYプロダクトマネージャーの haru です。

AIによって開発の前提が大きく揺らぐいま、モデリングの未来を議論するイベント Modeling Forum 2025(2025年11月26日(水)開催) に参加しました。

Modeling Forumは、UMTP(特定非営利活動法人 UML モデリング推進協議会)が毎年主催していて、今年のテーマは 「AI時代のシン・データモデリングとは?」 です。

AIが設計や実装に深く関与するようになった現在、人間はどこで価値を発揮し、モデリングはどのように進化すべきなのか。

本フォーラムは、その問いに対する最新の知見と実践が集まる場となっていました。

本記事では、Modeling Forum 2025で語られた内容や、モデリングの未来を考えるうえで重要だと感じたポイントを紹介します。

UMTPの活動内容

UMTPは「よみ・かき・AI・モデリング」を掲げ、「モデリングをリベラルアーツとして社会に根づかせる」ことを目的に、さまざまな普及・啓発活動を展開しています。

UMTPシン・モデリング宣言

Modeling Forum 2025の冒頭でUMTPの羽生田栄一会長から「UMTPシン・モデリング宣言」が公開されました*1

UMTPシン・モデリング宣言

UMTPシン・モデリング宣言については、以下の記事を参照してください。

tracery.jp

Modeling Forum 2025のプログラム

Modeling Forum 2025は、技術講演・技術講演・パネルディスカッションを中心とした本会と、実践的にモデリングを体験するモデリングワークショップの二部構成(本会とは別日)で開催されました。

本会(基調講演・技術講演・パネルディスカッション)

以下は本会のプログラムです。

各セッションの概要と資料、アーカイブ動画は、Modeling Forum 2025プログラム(本会)に掲載されています。

タイトル 登壇者
科学的思考におけるモデル:説明、創造、そして概念工学へ。(基調講演) 東京大学大学院情報学環・学際情報学府 准教授 植原亮 氏
AI readyデータ整備のためのデータモデリング 株式会社データアーキテクト 代表取締役 真野 正 氏
生成AI時代のドメインモデリング ― OOPとFPを超えて 株式会社ウルフチーフ 代表取締役 川島 義隆 氏
Excelデータ分析で学ぶディメンショナルモデリング~アジャイルデータモデリングへ向けて~ 株式会社風音屋 代表取締役 ゆずたそ(横山翔)氏
こんにちは!データモデリング~ エークリッパー・インク 代表 羽生 章洋 氏
要件定義の中心にモデルを置きLLMが出力した要件に責任をもつ 株式会社バリューソース 代表取締役社長 神崎 善司 氏
モデリングと生成AIで築く安心の設計 ― メタモデルに基づく設計書自動生成 ― 株式会社東芝
フェロー 前田 尚人 氏
スペシャリスト 鈴木 昴裕 氏
ワークショップ開催報告1:モデル駆動設計をやってみよう(モデルをプログラミング言語で表現する体験学習) 株式会社ビープラウド 代表取締役社長 佐藤 治夫 氏
ワークショップ開催報告2:「モデルとはモデリングとは何か」を本質観取しモデリングするワークショップ~すべての知的活動はモデリングか?リベラルアーツとしてのモデリングに向けて~ 豆蔵デジタルHDグループCTO/IPA主任研究員/UMTPモデリング・アンバサダー羽生田 栄一 氏
パネルディスカッション <司会>羽生田 栄一 氏
<パネラー>
- 真野 正 氏
- 川島 義隆 氏
- 風音屋ゆずたそ(横山 翔)氏
- 神崎 善司 氏

モデリングワークショップ

本会とは別日で、モデリングのワークショップが開催されました。

タイトル 講師
モデル駆動設計をやってみよう』(モデルをプログラミング言語で表現する体験学習) - 有限会社システム設計 代表 コミューン株式会社 技術アドバイザー増田亨氏
- 株式会社ビープラウド 代表取締役社長 佐藤 治夫 氏
「モデルとはモデリングとは何か」を本質観取しモデリングするワークショップ~すべての知的活動はモデリングか?リベラルアーツとしてのモデリングに向けて~ 株式会社豆蔵グループCTO、独立行政法人IPA主任研究員/UMTPモデリング・アンバサダー羽生田栄一氏

本会のセッション

以下では、本会の各セッションについて、内容(私的要約)、AI に関する言及、そして私自身の学びと気づきの三つの視点からまとめます。

基調講演

科学的思考におけるモデル:説明、創造、そして概念工学へ。

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内容(私的要約)
概要
  • 科学哲学*2の立ち位置から「モデル」の特徴、役割を中心に説明
科学とモデル
  • 科学では、仮説に基づいてモデルを構築し検証を重ねるアプローチをする
    • 例としてニュートンの万有引力の数理モデル、水分子やDNAの構造モデル、電流の直列/並列接続モデルを紹介。
科学におけるモデルの特徴・役割
  • モデルの特徴は「抽象化」と「理想化
  • モデルは、対象の振る舞いやメカニズムを理解するための枠組みとして機能する。
  • さらにアナロジー、結合・探索・変形を通じて新しい発見創造を促す。
  • モデルは概念工学*3にもつながる。
AI に関する言及

モデルの類型として、物理モデル、数理モデル、数値計算モデル、LLM(Large Language Model)が挙げられていた。

学びと気づき

モデルを構築することで生まれる価値を科学的な視点から整理することで、モデルがもつ「説明・理解・発見・創造」という機能を体系的に捉え直すことができる。

これらの機能の価値によって、モデルが単なる図や構造化の手段にとどまらず、思考を深め、新たな洞察を得るための強力なフレームワークとして働く。

今回あらためてその本質を理解したことで、日々のモデリングにおいて、何を明らかにし、どのような問いを立てるべきかをより意識的に設計できるようになると感じている。

結果として、モデリングの精度だけでなく、問題発見や価値創出の質も高まる。

資料

技術講演

AI readyデータ整備のためのデータモデリング

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内容(私的要約)
AI活用への課題
  • AIを有効に活用するためには、企業内で散在するデータの不整合品質のばらつきなど、データに起因する多くの問題を解消する必要がある。
    • その基盤となるのがデータマネジメントである。
データマネジメント
  • データマネジメントは、主に「データアーキテクチャ」、「データ品質」、「データマネジメントプロセス」の三つの観点から構成される。
  • データアーキテクチャでは、データ地図データ系統図全社データ体系等を整備し、企業全体のデータ構造を一貫した形で可視化する。
データアーキテクチャを作成する効果
  • データアーキテクチャにより、個別最適に陥りがちなデータ活用を、EA*4と連動した全体最適の視点へと導くことができる。
  • 鳥瞰的なデータアーキテクチャと詳細なデータ構造を組み合わせて設計することで、全体像と詳細設計の整合性が確保され、迷子になることを防ぐ。
AI に関する言及

個別業務領域のデータ構造設計は生成AIで代替可能になりつつある。一方で、データアーキテクチャの設計は依然として人が担う役割である。

学びと気づき

データアーキテクチャにおける「データ系統図」は、データの発生源・流通経路・依存関係を俯瞰し、システム全体の構造や潜在的な課題を可視化できる手法である。

データがどこで生まれ、どのように流通・変換されるのかを把握することは、データ品質の確保障害時の原因特定データ活用の検討変更影響の評価など、システム開発における多くの領域で重要な基盤となる。

今後、「データ系統図」を要件整理やアーキテクチャ設計の初期段階で積極的に取り入れ、データ構造とその流通を正しく理解するための基本ツールとして活用していきたい。

資料

生成AI時代のドメインモデリング ― OOPとFPを超えて

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内容(私的要約)
仕様駆動開発の課題
  • 生成AIを用いた仕様駆動開発*5では、どのような情報をAIに入力すべきかがまだ定まっていない。
  • 機能仕様や画面仕様だけを入力としたアウトサイドイン型の開発では、ドメインモデルが欠落し、AIが業務文脈を理解できない。
    • その結果、生成されるコードは理解しにくく、変更しにくいものになりやすい。
課題への解決策としてのドメイン記述ミニ言語の開発
  • この課題に対処するため、データと振る舞いを簡潔に記述できるドメイン記述ミニ言語を開発している。
  • この言語で表現したドメインモデルを生成AIに入力として与えることで、業務文脈を踏まえたコード生成を可能にする「スペックモデル駆動開発」を提唱し、実装を進めている。
ドメイン記述ミニ言語がもたらす価値
  • ドメインモデルを起点としたインサイドアウト型の開発が実現できる。
  • 記述するモデルは OOP(オブジェクト指向)や FP(関数型プログラミング)といった実装パラダイムに依存しない抽象的な構造を持ち、汎用的に利用できる。
AI に関する言及

仕様(ドメイン)モデルは業務理解にもとづいて人が記述し、そのモデルを入力として具体的な実装を生成するのが生成AIの役割である。この分担により、業務文脈を正確に反映したモデル駆動の開発が可能になり、実装の整合性と変更容易性が高まる。

学びと気づき

生成AIを活用した開発においても、インサイドアウトの開発による、内部品質の確立が重要であることをあらためて認識した。

生成AIに適切なドメイン情報を与えなければ、意図した構造や振る舞いを備えたコードは生成されない。この課題に対し、ドメインモデルを明示的に記述し、それをAIの入力とするアプローチは有効な解決策になりうる。

川島氏が提示した考え方とは対照的に、「ソースコードの中身はすべてAIに任せ、UnitTestやE2Eテストなどの自動テストで品質が担保されていれば、ソースコードの品質には人が干渉しなくてもよくなる」という予測もある。

しかし、私は現時点ではこの考えに賛同していない。

可読性の低いコードをAIが読み取れば、AIの誤りが生じる可能性は高まる。たとえば、類似した処理が複数箇所に存在する場合、1つの仕様変更に対して複数箇所を修正する必要があり、変更漏れが起こりやすい。

また、不具合が発生し緊急対応が求められる状況では、人間がソースを追跡できず、責任ある対応が困難になる恐れもある。

長期的には、可読性の低いコードでも誤りなく動作できる高精度な AI が登場する可能性はある。しかし、中期的な視点で見れば、長所と短所を併せ持つ AI の時代がしばらく続くと考えられる。

AI の誤りを抑えつつ、その長所を十分に引き出すためには、ドメインモデルを起点に内側の品質を高めていくインサイドアウトの開発アプローチが有効である。

資料

Excelデータ分析で学ぶディメンショナルモデリング~アジャイルデータモデリングへ向けて~

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内容(私的要約)
ディメンショナルモデリングとは
  • ディメンショナルモデリング」は、データ分析に適したテーブル設計手法
    • Excel を使って直感的に理解できる形で整理。
ディメンショナルモデリングの要素
  • ディメンショナルモデリングでは、データを集計対象となるファクトと、分析の切り口を担うディメンションに明確に分類する
  • ディメンションは 5W1H を基点に抽出することで、分析軸の漏れや重複を防ぎ、モデルの一貫性を保てる。
ビジネス環境の変化へのアジャイルな対応
  • ビジネス環境が変化すれば、必要とされる指標や切り口も変わる。
  • そのため、分析用データモデルも固定化せず、チームや事業の状況に応じてアジャイルに見直していく姿勢が重要である。
AI に関する言及

データ分析において生成AIエージェントを信頼して利用するためには、前提となるデータの意味定義を統一し、曖昧さを排除しておくことが欠かせない。データの名称や構造が乱立していると、AIは業務上の概念を正しく解釈できない。

たとえば、売上テーブルが50個も存在する状況では、どれが公式な「売上」なのかをAIは判断できず、誤った集計や推論を行う可能性が高まる。だからこそ、データ定義の標準化と一元管理が、AI活用の前提条件となる。

学びと気づき

データ分析では、データをファクト(集計対象)とディメンション(分析の切り口)に明確に分類する考え方が重要になる。

この枠組みを理解しておくと、分析を前提としたシステム開発でデータ設計の方針が立てやすくなる。

どのデータを集計の中心に据え、どの属性を分析軸として切り出すべきかを判断できるため、後工程での集計処理や分析要件との整合性が取りやすくなる。

資料

こんにちは!データモデリング~

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内容(私的要約)
生成AIがアプリ開発にもたらした影響
  • 生成AIの普及により、アプリ開発のコストは大幅に下がった。アプリ粗製乱造の時代になった。
  • エンジニア以外のユーザーもデータモデリングをする機会が増えている。データを扱うスキルも、IPAのデジタルスキル標準*6に要件としてあがっている。
データモデルの重要性
  • データモデルはシステムの構造と振る舞いを規定する基盤であり、ここに誤りがあると以後の実装や保守に深刻な影響を及ぼす。
人が担う責任
  • 初期モデルの生成をAIに任せる場合でも、業務理解にもとづく最終的な整合性確認は人が担う必要がある。
  • AI時代においても、データモデルの品質を保証する責任は人に残り続ける
AI に関する言及

生成AIの能力は急速に拡大しており、データモデリングのような専門的な作業も一定の範囲で代替できるようになりつつある。

しかし、データモデルは業務構造そのものを表す基盤であり、誤りがあればシステム全体に影響が波及する。

AIがモデルを生成できても、その妥当性や整合性を最終的に判断できるのは、業務理解と設計意図を持った人間である。だからこそ、AI活用が進むほど、人がモデルの品質を保証する役割はむしろ重要になる。

学びと気づき

データモデリングの重要性を強く再認識した。

データ設計を誤ると、データの意味づけが曖昧になり、更新異常や不整合が発生しやすくなる。

そして集計処理の複雑化性能劣化機能追加時の改修負荷の増大など、業務とシステムの両面に深刻な影響が及ぶ。

さらに、誤ったモデルによるデータ分析は誤解を生み、意思決定にも悪影響をもたらす。

プログラムコードの問題であればテストやリファクタリングで対処できる場合もある。

しかし、データベース設計の誤りの修正はシステム全体の前提を揺るがすため、後工程での修正が極めて困難になる。

だからこそ、データモデルの精度と一貫性を上流工程で確保することが、開発全体の品質を左右する。

資料

要件定義の中心にモデルを置きLLMが出力した要件に責任をもつ

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内容(私的要約)
モデルをプロセスの中心に置く
  • RDRA に基づく要件定義を生成AIで支援するアプローチでは、要件を構造化したモデルをプロセスの中心に置くことが鍵となる。
AIへのコンテキスト入力
  • AIは構造化されたモデルの情報をもとに推論しやすくなる。
  • RDRAではフェーズを進めるごとにナレッジを蓄積し、コンテキストを段階的に積み上げていくことで、要件の精度が高まっていく。
AIが生成した要件の検証
  • プロセスは4つのフェーズで進めるが、各フェーズごとに人が要件を検証するのは負荷が大きい。
  • そこで、初回フェーズのみ人が確認し、その後は最終フェーズまで一気に生成させ、RDRA専用ビューア(RDRA Graph)でビジュアルに検証するほうが合理的である。
  • ビューアによって要件の整合性や抜け漏れを俯瞰できる
  • 妥当性検証用のCSVデータを使って AI が生成した要件を検証できる。
  • 論理データモデル(ER図)も併せて出力させることで、データ構造の観点からも要件の整合性をチェックできる。
  • これらを組み合わせることで、AI支援による要件定義プロセスがより堅牢になり、RDRA の特徴である体系的な要件整理が効率的に実現される。
AI に関する言及

AI が出力した要件を人が検証し、整合性や妥当性を高めていくことが中心的なプロセスになる。

これにより、従来のように人が要件を一から書き下すのではなく、AI が提示した要件を理解し、意図や業務文脈と照らし合わせて評価することが人の役割となる。

要件定義は「人が定義する作業」から「AI が作った要件を人が読み解き、判断する作業」へと移行しつつある。

学びと気づき

具体的な定義作業は AI に任せられるようになりつつあるが、RDRA が提供するモデル構造そのものは、人が理解しておく必要がある。「要件とは何か」「要件定義とは何か」への理解*7が不可欠になる。

RDRA のモデルは要件を体系的に整理し、関係性を明確にする枠組みであり、この構造を理解していなければ、AI が生成した成果物の妥当性を判断できない。

従来の要件定義では、人手で細部まで書き下す作業に多くの時間が費やされていたが、これらの作業は AI によって代替される。

その結果、要件定義プロセスは大幅に効率化され、人は要件の整合性確認要件の取捨選択などの意思決定といった上位の作業に集中できるようになる。

資料

モデリングと生成AIで築く安心の設計―メタモデルに基づく設計書自動生成―

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内容
概要
  • 東芝で開発した生成AIを活用したソフトウェア設計・実装ツールについての理論的説明とデモ。
生成AIへのインプット
  • 生成AIに適切な成果物を生成させるための基盤として、まず設計書に記述すべき要素を体系化したメタモデルがあり、さらに生成の手順を定義したプロセス定義が用意されている。
  • これらを土台にしつつ、実装対象となる機能定義を入力として与えることで、AI によって設計から実装までを一貫して生成する。
開発ツール
  • ツールには、ルールベースで動作する Web 版と、生成AIエージェントを用いた版がある。
AI に関する言及

生成AIを活用した開発では、AIに知識を与え、生成物を人が検証しながら精度を高めていくサイクルが欠かせない。

このプロセスを成立させるためには、AI が理解できる形で要件や設計のコンテキストを提示する必要がある。

そこで重要になるのがモデルであり、モデルは人とAIが共通の枠組みで意味を共有するための言語として機能する。

設計書に記述すべき要素を体系化したメタモデルは、AI にコンテキストと構造を与える役割を果たす。

メタモデルがあることで、AI は、設計意図や構造的関係性を踏まえて成果物を生成できるようになる。

学びと気づき

「動くだけ」のコードをAIで自動生成できても、長期的な開発を支える内部品質は確保できない。

AI に継続的に整合性のある設計を生成させるには、メタモデルと、プロセス定義を精緻化し、AI が参照する設計のコンテキストを明確に整備する必要がある。

そのため開発者は、モデル間の関係性やプロセス全体の構造を理解し、AI が判断の拠り所とする設計の意味体系を設計できる力を身につける必要がある。

資料

パネルディスカッション

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パネルディスカッションは、技術講演の登壇者の方々(真野 正 氏、川島 義隆 氏、風音屋ゆずたそ(横山 翔)氏、神崎 善司 氏)と、モデレーターの羽生田栄一氏で、AIとの共存社会におけるモデリングの役割が議論されました。

以下は簡単なまとめです。

AIとの関わり方・対話

  • AIエージェントに翻弄されず、人間が主体性を持ってAIと共存する社会を実現するためには、モデリングが不可欠である。
    • モデルを介してAIと対話することで、企業全体の業務やデータ構造を明確にし、そのコンテキストを正確に伝えられる。
  • AIの返答を予測可能にするためには、抽象的な高級言語が必要である。
  • AIは、人が作り出したコードや設計思想をそのまま映し出す鏡のような存在である。
    • アウトサイドインの画面駆動*8で構築されたコードを学習させれば、AIは同じ構造のコードを再生産し続ける。
    • これは、組織構造がシステム構造に影響を及ぼすという「コンウェイの法則」の考え方とも関係する。
    • だからこそ、私たちはドメインモデルを起点としたモデル駆動のアプローチを取り、インサイドアウトで開発を行う必要がある。
  • 専門領域に近いほどAIの誤りに気づきやすい。だからこそ、人がAIをリードする必要がある。

データモデリングで学ぶ方向

  • 重要なのは「データベース」ではなく、あくまで「データ」そのものを理解することである。
  • 人は作業に時間を費やすのではなく、データがもつ意味を正しく捉えることに力を注ぐべきである。
  • 会計的な基礎やビジネスを学ぶことは有益である。売上や利益の構造、ビジネスがどの状態を「嬉しい」と感じるのかといった観点を理解すると、データモデリングの解像度が大きく上がる。
    • そのうえで、個別の専門的な領域へ進んでいけばよい。
    • 会計・簿記を学ぶことが推奨されてきたのも同じ理由であり、商品が買われ、取引が発生し、売上計上や支払いに至る一連の流れを理解することが、データの捉え方に直結するためである。

モデリングワークショップ

本会とは別日に、モデリングの実践に焦点を当てたワークショップが開催されました。私は、増田亨さんとともに『モデル駆動設計をやってみよう』(モデルをプログラミング言語で表現しながら学ぶ体験型プログラム)の講師として参加しました。

ワークショップはNEC様本社の NEC Future Creation Hub にてオフラインで実施され、23名の方にご参加いただきました。

4時間という長時間の実施でありながら、参加者の皆さんが自ら手を動かし、モデルを具体的なコードへと落とし込むプロセスに積極的に取り組んでいたことが印象的でした。

また、最後に行われた増田亨さんによる成果物レビューは、アンケートでも高い評価をいただきました。

以下は、本会での開催報告です。

speakerdeck.com

最後に

今回のModeling Forumでは、生成AIの進化が加速するなかで、人が担うべき役割が変容していることが示されました。

AIが多くの作業を代替するようになった今、私たちは「人はどこで価値を発揮するのか」という問いに真正面から向き合う必要があります。

私が人の役割として最も重要だと考えているのは、「課題を見極め、価値が実際に生まれるところまで責任を持つこと」です。

これは、価値創出の方向性を示すことに始まり、価値が具現化されるプロセスを設計し、AIと人の役割を最適に分担しながら成果を確実に生み出すことを意味します。

そして、このプロセスを支えるのが 判断の拠り所となる専門性 です。専門性にもとづいてAIを正しく導き、AIと協働して成果の質を高める力こそ、人が持つべき競争力であり、AI時代の価値創出の中心となります。

一方で、「作業」の多くが AIに代替されていくことは確実です。

だからこそ、人は価値創出のプロセス全体を設計し、最終成果に責任を持つ役割へと踏み出す必要があります。

今回の Modeling Forum では、その専門性として「データモデリング」が据えられていました。

業界のトップランナーの方々による講演は、モデリングが「AIと協働する時代における価値創出の基盤」であることを示すものであり、生成AIとの協働の現状を的確にとらえ、これからの方向性を考えるうえで、多くの示唆を得られる内容でした。

25 年にわたり知を積み重ねてきた Modeling Forum が、AI時代においても学びと実践を結びつける場として、さらに発展していくことを心から期待しています。

この記事を書いた人
haru

佐藤治夫。株式会社ビープラウド代表取締役社長。TRACERYのプロダクトマネージャー。エンジニアとして活動を始めて以来、モデリングを中心としたソフトウェアエンジニアリングを実践している。Xアカウント: https://x.com/haru860

*1:MF2025-09 パネルディスカッション:シン・UMTP宣言 モデリングネイティブを育てるには?「AI時代のシン・データモデリングとは?」から抜粋。

*2:科学そのものを対象とし、「科学とは何か」「科学的知識の根拠は何か」「科学の方法論は妥当か」といった根本的な問いを探求する哲学の一分野

*3:私たちが使う「概念(コンセプト)」を、まるで「モノ」や「システム」のように設計・評価・改善していく、比較的新しい学問分野やアプローチのこと

*4:Enterprise Architecture。組織全体のビジネス戦略と、それを実現するための業務、情報システム、技術を全体最適化する設計手法。部門を横断して共通言語と統一された手法で組織の全体像を可視化・設計することで、効果的な意思決定、リソースの最適化、変化への適応を実現する。

*5:Spec-Driven Development(SDD)のことで、開発の最初に「仕様(Spec)」を明確に定義し、それを唯一の基準(Single Source of Truth)として、コード生成、テスト、ドキュメント作成までを一貫して行う開発手法。AIとの連携が容易で、仕様書をコードやテストに変換・同期させることで、設計と実装のズレを防ぎ、開発の効率と品質を高めることを目的とし、AI時代に注目されている。

*6:デジタルスキル標準目次デジタルスキル標準ver1.2

*7:参考:要件定義とはそもそも何か カテゴリーの記事一覧 - TRACERY Lab.(トレラボ)

*8:画面仕様を元に実装する開発のこと。川島氏のニューレガシーアンチパターンの「画面駆動設計」を参照のこと。